くねくね

くねくね

【解説】

 田んぼにいる、人くらいの大きさでくねくねと動いている白い物体。その正体を見てしまうと発狂して同じ「くねくね」のようになってしまう。

【物語】

 小さい頃、お盆休みに秋田の祖母の実家に帰省して兄と一緒に田んぼの周りで遊んでいると、日が高くなった頃に、突然風が止んだかと思えば気持ちの悪い生緩い風が吹いてきた。 暑い上に暖かい風が吹いて不機嫌になったが、片や兄は遠くの案山子を見ていた。 あの案山子がどうかしたのかと兄に聞いたが、兄は『いや、その向こうだ』と言う。気になってその方を見ると、確かに人ほどの大きさの白い物体がくねくねと動いている。

 奇妙に感じたが、 あれはきっと新種の風で動く案山子なのだと解釈することにした。兄もこの解釈に納得したようだったが、風が再び止んでも例の白い物体はくねくねと動いていた。

 正体が気になるらしい兄が家から双眼鏡を持ってきた。兄が双眼鏡を覗くとその顔はみるみる真っ青になり冷や汗を流して、ついには双眼鏡を取り落としてしまった。 恐ろしく思いながら白い物体の正体を聞くと、兄は自分のものでは無いような声で『わカらナいホうガいイ……』と答えた。兄はそのまま家に戻っていった。

 兄の様子を見ると怖ろしいが、好奇心が勝って双眼鏡であの白い物体を見ようとした。しかしそのとき、祖父が焦った様子で 『あの白い物体を見てはならん!見たのか!お前、その双眼鏡で見たのか!』とこちらに迫ってきた。まだ見ていないと答えると、祖父は安心してその場に泣き崩れた。

 家に帰ると皆が泣いている。兄だけは狂ったように笑いながら、まるであの白い物体のようにくねくね、くねくねと暴れている。

 家に帰る日、祖母は『兄はうちに置いといて、何年か経ってから、田んぼに放してやるのが一番だ…』 と言う。 その言葉を聞いて悲しくなり大声で泣き叫んだが、必死に涙を拭って、車に乗って実家を離れた。

 帰り際に祖父たちが手を振る中で、変わり果てた兄が一瞬自分に手を振ったように見えた。表情まで見ようと双眼鏡で覗くと、兄は確かに泣いていた。

 曲がり角を曲がって兄の姿は見えなくなったが、兄のことを思い出しながら、緑が一面に広がる田んぼを双眼鏡で眺め続けた。

 …その時だった。

 見てはいけないと分かっている物を、間近で見てしまったのだ。

【補足】

 インターネット上で生まれた有名な妖怪。 「くねくね」の名称の初出は『洒落にならないくらい恐い話を集めてみない?』(以後『洒落怖』)Part31だが、 この話の話者は別サイトの「分からないほうがいい[1]」という話を自分の怖くはない体験と混ぜて書いている。

 「くねくね」の正体としてよく「あんちょ[2]」「蛇神[2]」「タンモノ様[2]」「シシカブリ[3]」などの怪異が紹介されることがあるが、 これらも伝承として確認されていない。

 「くねくね」は『洒落怖』を中心として多くの類話が語られている。その中には田んぼではなく市街地[4]や海辺[5]に現れたという話もある。

【掲載資料】

  • 『洒落にならないくらい恐い話を集めてみない?』Part31

【参考資料】

【コメント】

 私は中学校で、口頭で初めて「くねくね」を聞きました。 そのときは確か「田んぼの中に骨が無くてくねくねした人型の何かがいて、見ると気が狂う」のほかに「気づかれるとそのままものすごい勢いでくねくねと近づいてくる」 という内容がありました。殺意が高い。

 「くねくね」が登場したのは2003年のインターネットで、書籍としてはその翌年に『恐怖2ちゃんねる[6]』が出ています。 この話は題名が「くねくね」であるものの、その内容は前述の「分からないほうがいい」を転載したものです。 「ネット生まれの怪談/妖怪」という情報が付与されて語られることが多い「くねくね」ですが、 2006年にはもう児童書『怪異百物語 8 ─動物の怪・植物の不思議─[7]』に「聞き書き」の怪談として掲載されています。

 また最近では、『日本怪異妖怪大事典[8]』や『最強妖怪バトル大図鑑[9]』など、怪談本ではなく妖怪本にも掲載されることが多くなっています。

 「くねくね」はまだまだ成長途中の妖怪なので、見守っていきましょう。

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【履歴】

2018年5月22日:Twitterでの紹介

2019年4月17日:N鬼夜行での紹介