網顔

網顔

【解説】

 菱形の顔が網目のようになってたくさん積み重なっている妖怪。

【物語】

~これまでのあらすじ~

 備後国三次郡(広島県三次市)のに住む稲生平太郎は豪胆な若者であった。 そして近所に住む三ツ井権八という大男は勇ましいうえに剛力で、その相撲の腕前はたいしたものであった。

 ある日二人で話していると、「これまで怪しいものを見たことが無い。だから今夜暗くなったら百物語をして、 その後にくじ引きで負けた方が一人で比熊山に登って肝試しをしよう」という話になった。

 夜も更けて二人で持ち寄った怪談で百物語をした後にくじを引くと、くじは平太郎に当たった。平太郎は山に登ったが、ただ暗い中で何も起こらないまま帰ってきた。

 百物語をした後、しばらくは平太郎のもとに怪しいことは起こらなかった。しかし、ある日を境に毎日のように平太郎の家に怪異が襲い来るようになった。 しかし、豪胆な平太郎はそれをものともせずに過ごすのであった。

~あらすじここまで~

 

 

 妖怪が現れ始めて二十七日目の夕方に、陰山金左衛門という男が家にやってきた。この男は「そもそも何が起きようとも、 そしらぬ顔で争おうとしなければ物怪の方でも張り合いが無くなり、 我々も手品でも見るような気分でいれば不思議なものでもありません。今夜は私がお付き合いしましょう」と言って、10時前ごろまで話していた。

 平太郎はかなり眠くなってきたので、金左衛門の話を聞きながら眠っていた。金左衛門が隣の部屋を覗くと人間のような顔が見えた。その顔はひし形の網目のようになっていて、 横に伸びた顔も縦に長い顔もあった。顔は段々に並び重なって縦横に目まぐるしく増えていくので、金左衛門はうろたえて平太郎を呼び起こした。

 平太郎が目を覚ますと、金左衛門は真っ青な顔で部屋の奥の方にうずくまっていた。この網顔をよく見ると、 前に平太郎の家に出現した「輪違首」よりも一層不気味な顔で、縦になるときは口を開き、横になるときは口を閉じ、息をしているように見える。 金左衛門は耐えかねて箱に入れていた刀を取り出し斬りはらおうとしたが、 煙でも斬るように手ごたえは無く、網顔はそれを嘲るように笑い出したので、そのまま庭に跳び下り「お暇します」と言い捨てて帰ってしまった。

 戸締りをしてからまた網顔を観察していると、シャボン玉のように顔の上に新しい顔が重なり、縦菱になり、横菱になり、消えては現れ、家中残らず顔になってしまった。

 

 平太郎が「今夜もまたこれに誑かされて夜を明かすかもしれない」と思い早々に蚊帳に入って寝てしまうと、網顔はいつの間にか消えていた。

【補足】

 『稲生物怪録絵巻[1]』などにも同様の絵がある。

【掲載資料】

  • 『稲亭物怪録』

【参考資料】

  • [主]『稲生物怪録絵巻集成』杉本好伸(編)/国書刊行会/2004年
  • [1]『今昔妖怪大鑑 湯本豪一コレクション YOKAI MUSEUM』湯本豪一(著)/パイ インターナショナル/2013年

【コメント】

 カラフルで面白い妖怪です。

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【履歴】

2018年2月3日:Twitterでの紹介

2019年4月17日:N鬼夜行での紹介